2011年07月20日

地デジ

俺は、地デジに変えない。

そう決めてから、何日が経ったろうか。
おとうさん、おかあさんは元気だろうか。

ここには、朝も夜もない。
レンガで積み上げられた壁は高くそびえ立ち、もはや自力では登れそうもない。
毎朝、6時になると、塞がれている天井から、光がさし、男の声がする。
「おい、地デジに変える気になったか?」
「変える気はない!」
男は、ため息をつき、「困った御仁だ」とつぶやき、天井を上蓋のようなものでとじ、去って行く。
ここにあるのは、真っ暗な闇と、転がっている、いくつかの骸骨。

俺は、地デジに変える気はない。

今にして思えば、あの画面左下の、放送終了の文字のでかさ。
悪意に満ちていた。
この国のホンキに、もっと早く気付くべきだった。

佐藤と木村は元気だろうか。
俺と同じく、地デジに変えないと決めた、佐藤と木村。
あいつらもまた、俺と同じように、このあまりに酷い、拷問に耐えているのだろうか。
ヤマダに火を放ち、コジマを爆破した、望月は、極刑に課せられたと聞く。

レンガの隙間から、一本のつるが伸びている。
俺は今、それを毎日、少しづつ食べながら、生きている。
時折、降る雨がレンガを濡らし、したたる、その水分をなめ回しながら、生きている。

俺は、地デジには、変えない。

朝がきた。
いつものように、天井から光が差すと、男の声がする。
「おい、いい加減、地デジに・・」
「変えるものか!」
男は、一瞬、黙ったが、やがて、深いため息をつくと、こう続けた。
「佐藤と、木村といったか」
「・・・さあ、そんな奴は、知らん」
「今日、地デジに変えたそうだ」

膝が震えた。

男は、天井を閉じて、去って行く。
取り残された俺は、高鳴る胸の鼓動を押さえられず、ただ、ひたすらに泣いた。
レンガを殴りつけた拳から、血を流し、つるをちょっと食べた。

TVの売れ筋ベスト3を、都内全店、いたずらに変えて回った、あの佐藤が。
ブラウン管のTVを、小学校の門の前で、子供たちに売りつけて回った、あの木村が。

目眩がする。

負けちゃだめ・・

誰だ・・

変えないで・・・
地デジに、変えないで・・

声がする。

か、かあさん!

修一、男は、一度決めたら、とことんやれ。
ところで、地デジってなんだ。

と、とうさん!

かあさんととうさん。
1年以上も前に、アクオスを買った、かあさんととうさん!

俺、がんばるよ。
負けないよ。

つたを両手に絡め、俺は、壁を登りはじめる。

今、地上はどうなっているだろうか。デジタル放送だろうか。

それでも構わない。

この国を、もう一度、アナログ放送に戻す、その日まで。

もう二度と、電気屋で、何を買っていいかわからない、おばあちゃんとかを、見ることがないように。
その手にしている、パンフレットは、捨てていいんだよ。

「2012年、7月、地上デジタル放送は終了し、アナログ放送に戻ります」

あー、地デジむかつく。
posted by okita at 03:14| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
地デジに侵されてたので
こないだ久々に
友人ちでアナログ見たら
確かにあの左隅が
やな感じだなぁと思いましたバッド(下向き矢印)
けど
キツツキの情報を
地デジではやく見たいです映画
Posted by ぎふっこ at 2011年07月20日 18:35
おひさ〜
クオリティの高いブログだな。笑
Posted by shikomichi at 2011年08月04日 16:07
Posted by 小澤 身季子 at 2011年09月20日 18:31
沖田監督、ご無沙汰してます。

ブログ読ませてもらいました★

監督、何で、そんなおもろいんですか!!

弟子入りさせてけろっ!!

宜しゅうたのん増す★

m(__)m
Posted by 小澤 身季子 at 2011年09月20日 18:36
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